【この記事のまとめ:約300字】
ここ福井県鯖江市河和田地区は、越前漆器の産地として長い歴史を紡いできました。
しかし今、職人の高齢化や後継者不足により、産地の力が揺らいでいるという強い危機感を持っています。
過去から予測できた課題に対し、十分な対策を打ててこなかった現状を真摯に受け止めなければなりません。
弊社は、産地の未来のためには、従来の他力本願的な体質から脱却し、自らが考え行動する「自力・自立」への意識転換が不可欠だと考えています。
そして、産地であり続けるための生命線である「生産力の維持・向上」に、今こそ真剣に取り組む時です。
既存の仕組みにとらわれず、時にはスクラップ&ビルドも行いながら、売上だけを追うのではなく、確かな技術で「利益を生み出す」仕組みを再構築し、新しい産地のカタチを創造していく決意です。
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はじめに:産地の未来を想う
株式会社末広漆器製作所、代表の市橋啓一です。
日頃より、私どもの越前漆器をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
ここ福井県鯖江市河和田地区は、約1500年の歴史を持つともいわれる越前漆器の産地として、丈夫で美しい漆器づくりに励んでまいりました。
私自身、長年この地で漆器づくりに携わるなかで、先人たちが築き上げてきた技術と文化、そして、この産地そのものに強い愛着と誇りを持っています。
しかし同時に、その産地の未来に対して、今、強い危機感を抱いているのも事実です。
今回の記事では、私が考える産地の現状と課題、そして、未来に向けた活性化への想いと、取り組むべきだと考えていることについて、お話しさせていただきたいと思います。
越前漆器・河和田塗りが直面する「待ったなし」の現実
伝統工芸の産地が、多かれ少なかれ同様の課題を抱えていることは承知しております。
しかし、ここ河和田塗りの産地が直面している課題は、もはや看過できない、待ったなしの状況にあると考えています。

具体的には、以下の点が挙げられます。
- 深刻化する「職人の高齢化」と「後継者不足」 素晴らしい技術を持つ職人たちが、年々歳を重ねています。一方で、その技術を受け継ぐ若い担い手が、残念ながら、十分には育っていません。これは、単に働き手が減るというだけでなく、長年培われてきた貴重な技術や、言葉にしにくい「勘」といったものが失われかねない、ということを意味します。
- 懸念される「生産能力」と「技術力」の低下 担い手が減ることは、当然ながら産地全体の生産能力の低下に直結します。また、分業制で成り立ってきた産地において、一つの工程を担う職人や工房が減ることは、全体の生産ラインに影響を与え、これまで通りの品質を維持すること、お客様の多様なニーズにお応えする技術力を保つことが、徐々に難しくなっていく懸念があります。
- 「新しいものを生み出す創造力」の停滞 日々の仕事に追われ、将来への不安を抱えるなかでは、新しい発想で、今の時代の暮らしに合った商品を開発したり、新たな技術に挑戦したりする意欲や活力が生まれにくくなります。
- 根底にある「余裕の無さ」 精神的な余裕、経済的な余裕、時間的な余裕。こうした「余裕」が失われることで、目先の仕事に追われ、長期的な視点で産地の未来を考え、行動に移すことが難しくなっているのではないでしょうか。
これらの課題は、突然現れたわけではありません。 正直に申し上げて、20年、30年前から、こうなるであろうことは、うすうす予測できていたはずです。それにも関わらず、私たち産地全体として、この危機に対して抜本的な対処、効果的な対応、未来を見据えた対策を十分に打ってこられなかったこと。
その結果が、今の厳しい現状を招いているのだと、深く反省しています。
現状打破のために、今すぐ取り組むべきこと
では、この現状を嘆いているだけで良いのでしょうか。
もちろん、そうではありません。
産地を未来へ繋いでいくために、厳しい状況だからこそ、今すぐ取り組むべきことがあると考えています。
1.意識改革:「他力本願」から「自力・自立」への思考転換
これまで、産地には、どこか「誰かがやってくれる」「行政が助けてくれる」といった、他力本願な空気がなかったとは言えません。しかし、これからの時代、それでは産地は生き残れません。 私たち事業者一人ひとりが、工房や会社が、自らの足で立ち、自らの頭で考え、経営者として、ものづくりのプロとして、自立していくのだという強い意志を持つことが、全てのスタート地点だと考えます。 課題を他人事とせず、「自分ごと」として捉え、何ができるかを考え、行動に移す。その意識改革が、今、最も求められています。
2.産地の生命線:「生産力の維持・向上」への取り組み
漆器産地であるためには、当然ながら、漆器を「生産する力」がなければ成り立ちません。品質を維持し、お客様の求めるものを作り続ける力を維持、向上させていく必要があります。 これには、技術継承の仕組みづくりはもちろん、省力化や効率化に繋がる新しい技術や設備の導入、あるいは、従来の分業体制の見直しなども含め、生産体制を時代の変化に合わせて最適化していく視点が必要です。 弊社、末広漆器製作所におきましても、伝統的な技術を大切に守りながらも、現代の食生活に合わせた食器の開発や、新しい表現方法の研究などを通して、技術力を高め、生産性を維持向上させる努力を続けています。
スクラップ&ビルドで目指す「新しい産地のカタチ」
産地を活性化させるということは、単に昔の姿に戻すことではありません。 私は、これからの産地活性化には、「スクラップ&ビルド」、すなわち、古い体制や慣習、非効率な部分を勇気をもって見直し、壊し、そして、時代に合った新しい価値や仕組みを再構築していく発想が必要不可欠だと考えています。
そして、私が再構築したいのは、売上だけを追い求めるのではなく、しっかりと「利益を生み出す仕組み」です。
高い技術に見合った、適正な価値(価格)で製品やサービスを提供する。そして、得られた利益を、職人の待遇改善、後継者育成、新しい製品開発や設備への投資へと再投資していく。この健全な循環を生み出すことこそが、持続可能な産地経営の基盤となります。 伝統技術という確かな幹は大切に守りながら、変化を恐れず、新しい枝葉を伸ばしていく。そうして生まれる「新しい産地のカタチ」を創造すること。それが、本当の意味での産地活性化に繋がると、私は信じています。

最後に:河和田塗りを、未来へ
越前漆器、河和田塗りの灯を、ここで絶やすわけにはいきません。
課題は山積しており、その道のりは決して平坦ではないでしょう。
しかし、この地に根ざすものづくり企業として、私たちが持つ技術と経験を活かし、意識を変え、行動を起こすことで、必ず道は拓けると信じています。
これからも、末広漆器製作所は、越前漆器・河和田塗りの活性化、そして、日本のものづくりの未来のために、挑戦を続けてまいります。
今後とも、皆様のご指導、ご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
株式会社末広漆器製作所 代表取締役 市橋 啓一

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