「賃上げすれば、良くなる」という錯覚。私たちが本当に向き合うべき課題とは。

皆様、こんにちは。株式会社末広漆器製作所の市橋です。
ここ福井県鯖江市河和田では、お盆が過ぎ、暦の上では秋へと向かっているはずですが、日中は依然として厳しい暑さが続いています。ただ、ふとした瞬間に吹く風や、朝晩の空気の中に、ほんの少しだけ季節の移ろいを感じられるようになってまいりました。
さて、本日は、この季節の移ろいと同じように、大きく変化している社会経済の動き、特に国が積極的に進める「賃上げ」について、一中小企業の経営者として、今、私が率直に感じていることをお話しさせていただきたいと思います。
「賃金アップ」。この言葉は、働く方々にとって、非常に喜ばしく、前向きな響きを持っています。もちろん、私も従業員の生活が豊かになること自体に、何の異論もありません。しかし、現在の経済状況の中で進められるこの動きを、私たちは本当に手放しで喜んで良いのでしょうか。そのきらびやかな言葉の裏側で、見過ごされつつある厳しい現実について、私の考えを述べさせていただきます。
この記事のポイント
- 「賃上げ」の裏側にある厳しい現実:
国が進める賃上げは、物価の高騰が続く中で行われています。これは、収入の限られる方々や、私たち中小企業の経営にとっては、見た目以上に重い負担とのしかかってきます。 - 中小企業を襲う「負のスパイラル」:
企業の経費の大半を占めるのは人件費です。売上が上がらない中での賃上げ(と、それに伴う社会保険料の増加)は経営を直接圧迫し、結果として生産性の低い社員のリストラや企業の淘汰、そして新たな雇用の減少という、誰も望まない未来を招きかねません。 - 本質は「付加価値の創造」にある:
私たちが目指すべきは、「賃上げ」そのものではありません。自社の技術やサービスに、いかにして他にはない「付加価値」を生み出し、売上と利益を向上させるか。その結果として、従業員に豊かさを還元していく。この順番こそが本質だと考えます。 - 挑戦の先にしか未来はない:
厳しい時代だからこそ、私たち末広漆器は、この「付加価値の創造」という険しい道に挑戦し続けます。それが、企業と従業員、そして産地の未来を守る唯一の道だと信じて。
「賃上げすれば、良くなる」という錯覚
テレビや新聞では、連日のように「賃上げ」のニュースが報じられています。現役で働く方々にとっては、給与が増えること自体は、もちろん歓迎すべきことでしょう。しかし、私はこの社会全体のムードに、一抹の危うさを感じています。
もし、世の中の物価が安定したままで賃金が上がるのであれば、それは純粋な豊かさに繋がります。しかし、現実はどうでしょうか。原材料費、エネルギーコスト、物流費…ありとあらゆるものの価格が上昇し、私たちの生活コストは日々高まっています。この状況下での賃上げは、物価上昇分を補填するに過ぎない、あるいはそれさえも追いつかない、というケースも少なくないのではないでしょうか。
そして、この動きは、社会の中に新たな分断を生み出しかねません。賃上げの恩恵を受けられる現役労働者がいる一方で、年金など限られた収入で暮らす方々にとっては、物価上昇の負担だけが重くのしかかります。そして、私たち中小企業の経営者にとっても、このプレッシャーは計り知れないものがあります。
中小企業の現場で、今まさに起きていること

中小企業の経費の中で、最も大きな割合を占めるのは何か。それは、従業員の給与や社会保険料といった「人件費」です。これは、多くの経営者にとって共通の認識だと思います。
お客様に喜んでいただくため、売上を少しでも伸ばそうと、私たちは日々努力を重ねています。しかし、経済全体が大きく成長しているわけではない中で、多くの企業の売上が横ばいなのが実情です。それに加え、昨今の物価高騰、そして漆や木材、塗料や樹脂原料といった原材料の高騰が経営に直接的な打撃を与え、結果として会社の利益はむしろ減少しているという企業も少なくありません。
この、売上は伸びず、利益は減っているという厳しい状況の中で、経費の大部分を占める人件費だけが上昇していく。給与が上がれば、会社が負担する社会保険料も連動して上がります。これは、私たちのような地方の伝統産業にとっては、まさに死活問題なのです。
この先に起こることは、想像に難くありません。
人件費の増加に耐えきれなくなった企業は、まず、生産性の低い社員のリストラを考え始めるかもしれません。そして、付加価値を生み出せない企業そのものが、市場から淘汰されていくでしょう。企業の淘汰は、地域社会における雇用機会の減少に直結します。
賃上げという、一見すると美しく聞こえる政策の裏側で、結果的に職を失う人が増えるという「負のスパイラル」。私は、メリットや綺麗な部分だけをアピールして進められる現在の賃上げの先に、こうした大きな代償を払う未来が待っているのではないかと、深く憂慮しています。
私たちが本当に目指すべき道は何か?
では、私たちはどうすればいいのでしょうか。ただ時代の流れを嘆き、手をこまねいているだけでは、未来はありません。
私は、「賃上げ」は「結果」であって、「目的」ではない、と考えています。
私たちがまず全力で取り組むべきこと。それは、「自社の技術やサービスにいかにして独自の付加価値を付け、お客様に選ばれ、結果として売上と利益を向上させていくか」という、商売の原点に他なりません。
お客様が「高くても、これが欲しい」と思っていただけるような、他にはない魅力的な製品やサービスを生み出す。そうして得られた利益を、会社の成長のための投資と、そして何よりも、共に汗を流してくれる従業員への還元、すなわち「賃上げ」に繋げていく。この順番こそが、企業と従業員が共に成長していくための、唯一健全な道筋ではないでしょうか。

これまで私がこのブログでお話ししてきた、木製品の弱点を克服する「GFC加工」の開発や、不可能と言われたお椀の曲面への印刷技術への挑戦、そして、産地の未来のために敢えて困難な「内製化」の道を選ぶ覚悟。これらすべては、まさにこの「付加価値の創造」のための、私たちの具体的な取り組みなのです。
挑戦の先にしか、未来はない

厳しい時代であることは、間違いありません。しかし、嘆いていても何も始まりません。
私たち末広漆器製作所は、この厳しい現実から目をそむけることなく、自分たちの持つ技術を磨き、新しい挑戦を続けることで、「付加価値の創造」という険しい道を歩んでいく覚悟です。
それが、従業員の生活と雇用を守り、ひいては私たちが愛するこの越前漆器産地の未来を守ることに繋がると信じています。
社会の大きなうねりの中で、私たち中小企業一社にできることは小さいかもしれません。しかし、同じように考え、日々奮闘されている経営者の皆様と共に、この時代を乗り越えていきたい。そう切に願っております。
難しいお話に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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