越前漆器の未来を灯すために。直面する現実と、私たちの新たな決意。
皆様、こんにちは。株式会社末広漆器製作所の市橋です。いつも私たちの製品や活動にあたたかいご関心を寄せていただき、誠にありがとうございます。ここ越前は、梅雨入りを間近に控え、木々の緑が一層深みを増す季節となりました。
さて、本日は、私たちの日常の制作風景や製品のご紹介とは少し趣を変え、私が代表として、そしてこの越前漆器の産地に生きる一人として、今、直面している厳しい現実と、それに対する私たちの新たな決意について、包み隠さずお話しさせていただきたいと思います。これは、数年前から私が最も恐れていた事態であり、産地の将来に関わる、非常に大きな問題です。最後までお付き合いいただけますと幸いです。
この記事のポイント(約300字)
- 箔貼り職人不在という、産地の非常事態: 私たちの誇る越前漆器、特に美しい金箔・銀箔を施す「箔貼り」の技術を持つ最後の職人の方々がご高齢のため引退され、ついに産地から日常的に頼れる職人が一人もいなくなってしまいました。これは伝統技術の断絶を意味し、産地の存続が危ぶまれる非常事態です。
- 恐れていた現実と、それでも諦めない挑戦: この「職人不在」という状況は、私が数年前から最も危惧していたことでした。しかし、この困難な現実を前にしても、私たちは決して諦めません。従来の漆器に加え、陶器やガラスといった新しい素材への箔貼りに社内で取り組み、自ら技術を確立することで、この危機を乗り越えようと必死にもがいています。
- 「なんとか、この技術を繋ぎたい」その一心で: 日々、技術の習得と向上に努めていますが、その道は険しいものです。しかし、「この美しい箔の輝きを、私たちの代で絶やすわけにはいかない」「なんとかして、この技術を未来に繋ぎたい」その一心で、私たちは前を向き続けます。手仕事の価値と、箔が持つ普遍的な美しさを信じて。
ついに訪れた、恐れていた現実
越前漆器の産地は、1500年以上の歴史の中で、常に時代の変化に対応しながら、その伝統技術を磨き、受け継いできました。金や銀の箔で加飾された漆器は、その象徴ともいえる存在です。しかし、今、その核心的な技術である「箔貼り」において、私たちは最大の危機を迎えています。
長年産地を支えてこられた箔貼り職人の方々が、ご高齢を理由に引退され、私たちの産地から、日常的に頼れる箔貼り職人が一人もいなくなってしまったのです。

この「職人不在」という現実は、私が数年前から最も恐れていたことでした。後継者不足、そして職人の高齢化という問題は、ゆっくりと、しかし確実に進行していました。私たちは、その状況を何とか食い止めようと努力してきましたが、ついにこの日を迎えてしまったのです。
それは単に、人手が足りないということではありません。先人たちが長い年月をかけて培い、守り伝えてきた貴重な技術が、私たちの目の前で途絶えようとしているのです。「今まで当たり前にできていた事ができなくなる」どころか、「もう、できなくなってしまった」という現実に、言葉を失うほどの衝撃と、深い無念さを感じています。美しい箔の輝きを、お客様にお届けすることが困難になるかもしれない。それは、産地の灯が消えかねないほどの、深刻な事態なのです。
それでも、私たちは諦めない。未来への一筋の光を求めて。
この絶望的とも思える状況を前に、一時は途方に暮れそうになりました。しかし、ここで立ち止まってしまうわけにはいきません。株式会社末広漆器製作所として、そしてこの産地で生きる者として、私たちはこの困難な現実から目を背けず、未来への一筋の光を自らの手で灯すべく、新たな決意を固めました。
1. ゼロからの挑戦 – 社内での箔貼り技術確立へ
産地に頼れる職人がいないのであれば、自分たちでやるしかない。幸い、私たちはこれまでも漆器だけでなく、陶器やガラスといった新しい素材への箔貼りに挑戦し、そのノウハウを少しずつ蓄積してきました。それは、ある意味で、この日のために備えてきたのかもしれません。
もちろん、長年培われてきた箔貼りの熟練の技を、一朝一夕に私たちが完全に再現できるわけではありません。私たち末広漆器としましては、まず何よりも、失われてしまった伝統的な箔貼りの技術そのものと、そこに込められた職人さんたちの精神を深く尊重し、その本質をどうにかして継承していきたいと強く願っております。その上で、その高度で繊細な手仕事の世界を、現代の知恵や新しいアプローチで補い、あるいは一部でも私たちの手で再現できないものかと、まさに今、社内で様々な可能性を探りながら切磋琢磨し、検討を重ねているところです。試行錯誤を繰り返し、時には大きな壁にぶつかり失敗に肩を落としながらも、社員一丸となってその技術の習得と向上に取り組んでいます。かつて職人さんたちが、いとも当たり前のように、そして美しく仕上げていた作業の一つひとつが、どれほど高度で繊細な技術と経験の結晶であったのかを、挑戦するたびに改めて痛感する日々です。それでも、「なんとか自分たちの手で、この美しい箔の輝きを再び製品に宿し、お客様にお届けしたい」その一心で、私たちは歯を食いしばって前に進んでいます。
2. 新たな素材への展開が、技術継承の鍵となる
従来の漆器だけに固執していては、この厳しい状況を乗り越えることは難しいかもしれません。陶器やガラスといった新しい素材への挑戦は、結果として箔の新たな表現を生み出し、より幅広いお客様にその魅力を伝える機会となります。そしてそれは、社内で技術を確立し、若い世代へと繋いでいくための原動力にもなると信じています。
新しい需要を創出し、事業として継続していくことができれば、時間はかかるかもしれませんが、再び産地に箔貼りの技術を根付かせることができるかもしれない。そんなかすかな希望を胸に、私たちは挑戦を続けます。

3. 「なんとか頑張っていきたい」– それが今の私たちの全て
「箔貼りの技術と製品づくりは、今後ますます必要とされるものだと期待しております」。これは、以前から私が抱いていた想いであり、今も変わることはありません。むしろ、失われかけているからこそ、その価値はより一層高まっていると感じます。
正直に申し上げて、今の私たちの挑戦は、暗闇の中を手探りで進んでいるようなものです。しかし、「なんとかしたい」「この技術を未来に繋ぎたい」「お客様に喜んでいただきたい」その強い想いが、私たちを突き動かしています。
未来への期待を信じて
この越前の地で、再び美しい箔の輝きが満ち溢れる日を夢見て。私たち末広漆器製作所は、どんなに困難な状況であっても、決して諦めることなく、前を向いて進んでまいります。私たちのこの切実な想いと、ささやかながらも懸命な取り組みが、いつか産地の未来を照らす小さな灯となることを信じて。
私たちの製品や活動に、引き続きご関心をお寄せいただけましたら、これ以上の喜びはありません。
株式会社末広漆器製作所 代表取締役 市橋
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株式会社末広漆器製作所 担当:市橋(いちはし)
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